手術の範囲を小さくすることは、患者の体への負担を軽減し、生活の質を高めることにつながる。胃の腫瘍を、口から入れた内視鏡とおなかから入れた腹腔(ふくくう)鏡で協力して切除する手法が開発され、良好な成績を収めている。開腹が不要で切除が最小限で済むため胃が温存され、手術後も食欲、体力を保つことができるのが最大の利点だ。この手術の開発、普及に当たる専門家に聞いた。
■生活の質低下
この「腹腔鏡内視鏡合同手術」は英語の頭文字からLECS(レックス)と呼ばれる。今のところ、胃の粘膜下に発生する消化管間質腫瘍(GIST=ジスト)や早期の胃がんなどが対象だ。国立がん研究センターによると、日本でGISTの患者は10万人に1、2人とされる。レックスを開発したがん研究会有明病院(東京)の比企直樹胃外科部長によると、小さな粘膜下腫瘍は、以前には経過観察することも多かった。だが、半年ごとの検査は患者の負担もコストも大きい。小さくても転移する恐れがあることも分かり、早期手術が主流になった。
とはいえ、開腹手術では少なくとも胃の3分の1を切除する。胃が変形して食べ物が通らなくなったり、胃から分泌されるホルモンが失われたり、逆流性食道炎が起きたりする。食べられなくなれば、筋力の衰えや体重低下が起き、生活の質は大きく低下する。
■弱点補い合う
より負担の小さい方法はないか。おなかに開けた穴から挿入した腹腔鏡による手術、口から入れた内視鏡による切除がそれぞれ開発されたものの、それぞれの手法に弱点があった。比企さんによると、腹腔鏡手術では、腫瘍が胃の内側に膨らむと患部が見えない。腫瘍に切り込んでは、取り残しや転移の危険が高まるので、安全のためどうしても切除範囲が広くなる。一方、内視鏡による切除で多数の実績があり、今ではレックス手術も手掛けている北里大病院(相模原市)消化器センター長の田辺聡教授は「胃壁に穴を開けてしまうと、内視鏡では患部を縫い合わせられない。切除には細心の注意が必要で、対象の腫瘍の大きさも限られていた」と話す。
双方の弱点を補い合うのがレックスだ。腹腔鏡医と内視鏡医が連携、協力して手術する。まず、内視鏡で胃の内側から患部を観察。切除すべき範囲を特定して「切り取り線」を付ける。内視鏡で線上の1カ所だけ胃壁に穴を開け、腹腔鏡は、その穴から胃壁に切り込む。手術室のモニター画面で胃の内外の映像を確認し、声を掛け合いながら切り取り線に沿って切除することで、必要最小限の摘出が可能になった。
■何でも食べられる
もともと腹腔鏡手術を手掛けていた比企さんは平成18年、院内の内視鏡医に呼び掛けてこの手術を初めて実施。20年には成果を論文にし、全国の多数の医師と勉強会を発足させた。19~23年に8医療機関で行われた計126例では、中央値で4年半の観察で再発は皆無。安全性が確かめられ、26年には胃の局所切除法として保険適用された。手術は平均3時間余り。10月にこの手術を受けた30代の男性患者は、地元病院からの紹介で有明病院に来院。翌日には手術し、2日後には飲み物を、3日後には流動食を取ることができた。10日で退院し、翌週からは職場復帰。「以前と同様に何でも食べられる」と喜んでいる。比企さんは「リンパ節転移の有無が確認できるようになれば、より多くの胃がんに用いられるだろう。大腸など下部消化管にも応用が見込める」と話している。
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産経ニュース 2018.12.7
https://www.sankei.com/life/news/181207/lif1812070010-n2.html
外科医と内視鏡医とのコラボレーションといわれている、LECSとは腹腔鏡・内視鏡合同手術(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)の略称で、内視鏡治療と腹腔鏡手術を同時に行うことで、必要最小限の侵襲で腫瘍切除を可能とする新しい手術方法とのことです。胃粘膜下腫瘍をはじめとした疾患において、試験的に行われていますが、将来的には対象疾患の拡大が期待されています。侵襲が最小限というのは、素晴らしいことだと思います。今後に期待ですね。