肺がんの8割を占めるという腺(せん)がんや扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんの治療に対して、抗がん剤の開発が進んでいる。がん細胞特有の分子をピンポイントで攻撃する「分子標的薬」に加え、耐性を持ったがん細胞に効果がある薬も開発され、二段構えで効果を上げている。(坂口至徳)
◆副作用も少なく
厚生労働省によると、日本で新たに肺がんと診断された患者数(平成25年)は男性が約7万5千人、女性が約3万6千人で、女性の罹患(りかん)率は増加傾向にあるという。現在、肺がんの薬物治療には、プラチナ(白金)製剤など、がん細胞のDNAに結合して壊すタイプ(細胞障害性抗がん剤)を使う化学療法と、分子標的薬の2種類が主に使われている。分子標的薬は、遺伝子解析技術が発達し、がん細胞を増殖させる分子などが解明されたことから、平成12年ごろから開発が進んだ。大阪国際がんセンターの今村文生・呼吸器内科主任部長は「がん細胞だけを狙い、正常細胞に障害を及ぼすことがないため、比較的副作用は少ない」としている。
◆多様な薬剤使い分け
「化学療法で、どのような薬剤を組み合わせて副作用を減らし、効果を上げるか行き詰まっていたとき、分子標的薬の登場で新たな治療法の道が開けた」と、今村部長は振り返る。腺がんや扁平上皮がんは、細胞の形などから「非小細胞がん」と呼ばれる。非小細胞肺がんの場合、がん細胞の表面には、増殖を促す信号を細胞内部に伝えるEGFR(上皮成長因子受容体)というタンパク質が多く現れることがある。この一部が変異し、情報を伝達する酵素(チロシンキナーゼ)の部分の働きが異常に活発になると、「増殖せよ」というスイッチがかかったままになり、がんの症状が進行する。この変異は、アジアの肺がん患者に多く、3割以上にみられるという。今村部長によると、分子標的薬は、この変異した分子に結合して働きを阻害し、信号伝達を断ち切ることにより、増殖を防ぐ。日本では、14年に肺がん治療の分子標的薬として世界で初めてイレッサ(一般名ゲフィチニブ)が承認された。その後、同様にがんを増殖させる「ドライバー遺伝子」の別のタイプが見つかり、24年までに6種類の分子標的薬が承認された。患者の遺伝子検査でタイプをあらかじめ調べ、使い分けられるようになった。
◆耐性持つものにも
ところが、今度は分子標的薬を1~1年半使い続けると、その薬剤に耐性を持ったがん細胞が現れることが問題になった。その原因のひとつとして、EGFRを構成するアミノ酸の種類が1つだけ変異して立体構造が変わり、分子標的薬が酵素に結合できないまま、増殖が進行することが判明した。そこで、構造の変化に応じて、不可逆的に結合するタグリッソ(オシメルチニブメシル酸塩)という分子標的薬が世界で初めて開発され、日本で昨年3月に承認された。今村部長は「手術が難しい進行性の非小細胞肺がんの患者にとって、タンパク質のさまざまな部位を変異させてすり抜けるがん細胞を迎え撃つ分子標的薬の開発は、ますます重要になる」と強調する。その上で、将来的には「がん細胞が免疫力を抑えようとするのを抗体を使って阻止する『免疫療法』と組み合わせることで、多様ながん細胞を死滅させたい」と話した。
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産経ニュース 2017.7.25
http://www.sankei.com/life/news/170725/lif1707250023-n3.html
今回の記事では、がん細胞特有の分子をピンポイントで攻撃する「分子標的薬」について詳しく述べています。これについては、「分子標的薬」に対し、耐性を持つがん細胞も確認されていますが、この耐性を持つがん細胞に対し、これに効果のある薬も開発されています。がん細胞と薬剤のいたちごっこ状態かもしれませんが、最後には、がん細胞の死滅という人類の願いがかなえられる日を心待ちにしています。