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噛める入れ歯を作っておこう
いま、歯をなくすと、インプラントがあります。歯がなくなっても骨は残るので、この骨に歯の代用品を植えるのがインプラントです。ですが、いろいろな理由でインプラントをできない人には、入れ歯があります。うまくかみ合わないという方がいると思います。私は保険治療でやっていますが、保険で作った総入れ歯でどんなものが噛めるでしょうか。私の患者さんは、ピーナツ、漬け物、エビフライ、干物、タコ、りんご、すしが好きな方はのりが切れると喜ばれました。イカのにぎり、マグロのにぎりも噛み切れます。糸が切れるという方もいます。
例えば、量販店のシャツは値段がすごく安いけれど、首が通らないとか、袖の長さが違うとかいうことは、まずないですよね。ところが入れ歯を保険で作るとなると、「保険ではここまで」。これは良くない。歯医者と患者さんが十分、ディスカッションして、入れ歯で噛めるようになるまで頑張らないといけません。入れ歯は「量販店」でいいんですよ。
どれぐらい噛めているのかを計る客観的な方法がなかったので、日本歯科大の小林義典教授が咀嚼(そしゃく)能力の判定システムをつくりました。このシステムで、健康な歯を持った22歳から57歳で実験してみると、咀嚼能力は221から296ぐらいでした。数字が大きいほどよく噛めているということです。入れ歯で100以上噛めれば、だいたい良いと思います。
82歳のある患者さんは、入れ歯を22個も持っていました。私のところで、23個目を作らせていただいて、咀嚼能力が97から195になりました。この方は、初め来たときはお嬢さんに支えられて、ヨロヨロしていました。ところが噛めるようになってから元気になって、最近は自分で車を運転してお見えになります。保険の仕組み上、入れ歯を作れるのは半年に1回です。噛めない入れ歯を作ってしまったら、半年たったらどこかの別の歯医者に行って作る、今度はこっちで、今度はあっちで、というふうに、いろんなことをやる人もいます。だけど、1人の先生とがっぷり四つで、噛めるまで頑張ることが大事だと思います。あちらこちら行くのは、医療費の無駄遣いです。転ばぬ先の杖で、元気なときにちゃんと噛める入れ歯を作っておきましょう。
「8020」を達成するために
日本歯科医師会の「8020(ハチマルニイマル)」運動は、80歳で20本、自分の歯を残そうという運動です。これは20本ぐらいあったらだいたいのものは食べられるというデータがあるためです。「8020」をぜひ達成しましょう。
まず子どもの虫歯ゼロを達成しましょう。家庭と学校など教育現場のみんなで子どもの歯を守るということです。噛むことと歯磨きを、20歳までちゃんとやっていきましょう。
20歳ぐらいになると今度はプロフェッショナルケア。歯医者に定期的に行って健診を受けて、そしてきちんと噛む。そうすると、きれいな歯を保てます。
なんで歯医者が、歯を残そうと言うかというと、残っている歯が多い人は元気で長生きするものだからです。口の中を清潔にすることをちゃんと理解しておくことが大事です。
非常に高齢な方に歯を磨きなさいと言っても無理ですよね。だから、お年寄りがおられたら、子どもさんとかお孫さんが、おじいさん、おばあさん、親の歯をきれいにしてあげることです。
あるお嬢さんは、親の歯を磨いてあげなさいと言ったら、はじめ「いやです」と言っていました。汚いとかなんかとか言うから、やかましいと言うたんですよ(笑)。あんた、小さいとき、お母さんから歯を磨いてもらったろ。今度は親の歯をちゃんと磨いてくださいって。
歯科衛生士さんや看護師さんだけに頼っても、これだけ高齢者が多くなったら間に合わないのです。
そして、入れ歯も徹底的に清潔にすることです。必ず、1日に1回、寝る前にはきれいに洗浄剤を使いましょう。これが肺炎の予防にもなります。ちゃんと口の中を清潔にすれば、肺炎の発生率が大幅に減ります。
口を清潔にしてよく噛んでください。噛むことは、注射や薬にない効果があります。健康長寿の源です。健康であれば、家庭が明るくなり、医療費が減ります。超高齢化社会で、いっぱいの年寄りが、いっぱい健康長寿になります。よく噛んで元気に過ごしてください。
>>日本の高齢化社会への加速度が増している現状において、やはり「入れ歯」の重要性については、皆さんもご存知のとおりかと思います。また、口腔内のケアについても同じことが言えますが、年を重ねられると、なかなか自分だけでのケアは難しくなるかと思います。訪問診療についても充実してきていますが、やはり普段のケアは、家族の方々の支えがあってのものかと思います。改めて、家族の理解の重要性を感じる記事でした。