筋力や認知能力が衰え、気力や活力も落ちてしまう「フレイル(虚弱)」という言葉を聞いたことはあるだろうか。特に最近は口の(オーラル)働きの低下に着目した「オーラルフレイル」対策が注目され、歯科でも試みが始まっている。(津川綾子)
「オーラルフレイル」とは加齢で口の働きが衰えて、食事中にむせたり食べこぼしたりするうちに、食欲が落ちたり、滑舌が悪くなったりした状態のこと。単なる老化現象とあなどりがちだが、「一つ一つはささいな口の衰えでも、複数が重なり、そのままにしておくと心や体の健康にも大きく影響し、やがて要介護の身となるリスクを高めてしまう」と、フレイル研究の第一人者、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授(老年医学)は注意を促す。飯島教授らは平成24年、千葉県柏市で65歳以上の介護を必要としない高齢者約2千人に滑舌や舌の力、かむ力など6項目で口腔(こうくう)機能の状態を調べ、約4年後に健康状態の追跡調査をした。その結果、3項目以上に該当し「オーラルフレイル」とされた人は、正常だった人よりも2・09倍も死亡リスクが高く、要介護になる危険度も2・35倍となった。ではどんな自覚症状や状態だとオーラルフレイルの可能性があるのか。飯島教授らが8項目でチェックできるようにした。マス目の得点の合計が4点以上だとオーラルフレイルの危険性が高い。しかし、オーラルフレイルの可能性があるからといって落ち込むことはない。「口の健康に意識を向け、舌や口の筋力のトレーニングを早めに始めるなどすれば、機能低下を食い止めたり、回復したりすることもできる」と飯島教授。
最近、オーラルフレイル対策の場として注目されるのが、口腔機能を専門とする歯科だ。神奈川県歯科医師会は県や飯島教授らと連携し、事前調査でオーラルフレイルと判明した65歳以上の男女200人を対象に昨年10月から、口や舌の筋肉のトレーニングを日課にする「オーラルフレイル改善プログラム」を始め、どれくらい口の機能回復に効果があるのか集計中だ。 例えば、「マカト」「マキト」などと3つの無意味な音を連続で早口発声する訓練は、衰えると食べこぼしにつながる「口輪筋」などを鍛える。朝と夜、1日2回、5分間ガムをかむ咀嚼(そしゃく)の訓練もある。こうしたトレーニングを昨年10月から続ける、川崎市中原区の星行男さん(78)は、トレーニング開始前と比べ、嚥下(えんげ)機能の検査結果が2倍以上改善。「以前は喉にひっかかった薬が飲みやすくなり、肉をかむのが楽になったし、散歩に出かける気力も出てきた。できる限りトレーニングを続けたい」と話す。星さんがかかりつけの「さとう歯科医院」の院長で、県歯科医師会の佐藤哲郎理事は「口の働きが良くなったという実感から食も進み、活動的になられたようです」と見守る。
県歯科医師会と県は今年3月にオーラルフレイルのハンドブックを作成。オーラルフレイル対策に取り組むことができる歯科医院の拡充を進めていく。
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産経ニュース 2018.4.20
http://www.sankei.com/life/news/180420/lif1804200022-n3.html
オーラルフレイルとは、平成26年に日本老年医学会が提唱した概念で、加齢とともに認知機能や筋力、心身の活力などが衰えて虚弱になった状態と定義されています。ちなみに、この状態のままにしておくとやがて要介護になるリスクが高まりますが、生活習慣を見直すことで、進行を食い止めたり、改善の方向に向かったりする可能性もあるとされています。近年、注目されはじめたこの分野について、我々も、より精通していかなければならないですね。