放置すれば2050年には、世界でがんを上回る年間1000万人が死亡する-。抗生物質(抗菌薬)が効かない細菌「薬剤耐性菌」には、こんな怖い推定がされている。政府は平成28年、抗菌薬の適正使用を柱の一つにした耐性菌対策の行動計画を策定した。それから2年。患者の「納得」で抗菌薬の使用を大きく減らした診療所も出てきている。
抗菌薬の使い過ぎが原因の一つ
耐性菌が増える原因の一つは抗菌薬の使い過ぎだ。代表例は風邪の診療。原因のほとんどがウイルスで、抗菌薬は効かないのに「念のため」の処方も多いといわれる。 行動計画は、幅広い細菌に効果があるマクロライド系抗菌薬などを中心に使用量の大幅削減を目指す。それを受け政府は診療指針の整備や啓発などに取り組んでいる。国立国際医療研究センター(東京)の「AMR(薬剤耐性)臨床リファレンスセンター」が25年以降の抗菌薬販売量を集計したところ、28年まではほぼ横ばいだったが29年は25年比で7・8%減となった。具芳明(ぐ・よしあき)情報・教育支援室長は「啓発の成果が表れ始めた可能性がある。30年度からは抗菌薬の適正使用が診療報酬でも評価されているので削減が一層進むのでは」と話す。具さんらと日本化学療法学会などは今年2月、全国の診療所に風邪への抗菌薬使用についてアンケートを実施した。約270の有効回答の分析によると、過去1年間に風邪と診断した患者に抗菌薬を処方した頻度は「20%以下」が62%を占めたが「81%以上」との答えも5%あった。抗菌薬を希望する患者や家族がどれくらいいるかを尋ねると、半数は「20%以下」と答えたが、「21~40%」「41~60%」が各19%など、患者側の要望もかなりあることが判明。その際の対応は「説明しても納得しなければ処方」が50%で最多だった。抗菌薬を減らすには、患者の納得が不可欠なことを示した形だ。
国の行動計画よりも先に取り組み、不適切な抗菌薬を減らした診療所がある。奈良県橿原市の「まえだ耳鼻咽喉科クリニック」。前田稔彦(としひこ)院長によると、患者100人当たりの抗菌薬処方件数は現在、ピーク時の約7分の1だという。15年の開院当初は風邪や中耳炎の子に当然のように抗菌薬を出した。中耳炎は耐性菌が原因の場合もあり、治らずに別の薬、それでも治らずまた別の薬…の繰り返しも。薬剤師で妻の雅子さんは「これでいいのかと疑問が募った」と振り返る。感染症専門医の講演をきっかけに、鼻水などの検体を薬品で染め、顕微鏡で細菌の有無を調べる「グラム染色」という検査を16年に始めた。院長も、検査結果に基づいて選ぶ抗菌薬の効きの良さや、薬なしで治る患者を目の当たりにし、グラム染色の意義に確信を持ったという。だが患者の納得にはもう1段階必要だった。「ここは薬をもらえないから別の所に行こうか」という患者のつぶやきを雅子さんが聞き、モニター付きの顕微鏡を19年に導入。検査画像を患者に見せ、「こういう細菌で炎症が起きているようなのでこの抗菌薬を出します」「菌は見えない。薬は不要です」と説明を始めた。抗菌薬が大きく減ったのはそれからだ。今では「薬はしばらく待ちますか」と自分から言う母親もいるという。
前田院長は「必要な時だけ抗菌薬を使うと患者さんに説明しつつ『処方を数日待つ』を実行するだけでも、少しずつ変化が見えてくるのではないか」と話している。
>>
産経ニュース 2018.10.11
https://www.sankei.com/life/news/181011/lif1810110018-n3.html
抗生物質があれば、とりあえず安心できるから、念のため持っておきたい。というのは、ほとんどの患者さんの思いかと思われます。そして、渡さなかった場合には、薬をもらえないから別の所に行こうかというのも、わかる気がします。ただ、この現状を理解してもらうためにも、我々の患者さんへの啓蒙活動が必須ですね。