日本経済新聞 http://www.nikkei.com/article/DGXDZO52345710S3A300C1MZ4001/
笑いは人生を豊かにする。経験的にも体によい感じがする。最近は、医学や脳科学の観点から健康維持に役立つ理由を探る研究も活発になっている。しかし作用の仕組みは明確に分からず、信頼性の高い調査も少ない。笑いと健康の関係はどこまで分かってきたのだろうか。何がよい効果をもたらすのだろうか。
■増える論文の数
笑いが医療に取り入れられた端緒は、米国の雑誌編集長だったノーマン・カズンズ氏が強直性脊椎炎という難病にかかり、笑いを取り入れた治療で完治した経験を著名な医学雑誌に報告した76年のことだ。ユーモア小説を読んだり喜劇映画を見たりして大笑いすると痛みが和らいでぐっすり眠れるようになり、数カ月後には職場復帰した。カズンズ氏はその後、カリフォルニア大学医学部教授に転じ、笑いの治癒力を説いた。
これを機に笑いの効用を科学的に解き明かそうとする研究が始まった。日本でも94年に初めて、笑いが免疫機能を高める可能性を示す実験が報告され研究が増えてきた。ストレスの軽減や血糖値の上昇を抑える効果、血圧の低下を調べる例が多い。
注目度は高まっているが、笑いが健康によいという理由をはっきり証明できたわけではない。大平教授は「長期間追跡した調査がまだない」と明かす。
免疫機能の向上やストレスの軽減など短時間で一過性の効果は確かめられても、それが長期間の健康維持にどう役立っているのか、本当に元気で長生きにつながっているのかが調べられていない。効果をもたらす仕組みも不明なため、笑うと健康になるのか、健康だからよく笑うのか、因果関係をつかむ議論はいつも堂々巡りになる。
現時点で信頼できる笑いの医学的な効用とは何か。大平教授は「運動とストレスの解消」の2点を指摘する。
■カロリーを消費
声を出して大笑いした後は腹筋が痛くなる。笑い方にもよるが、笑いは運動と同様に筋肉を使いカロリーを消費することは確かなようだ。ストレス解消では、笑いが脳内の血流を増やしたり自律神経を安定にしたりする作用は認められている。ただこれは音楽鑑賞や旅行、趣味などに熱中した時などにも見られ、笑いに限った現象ではない。
笑いと関係の深い暮らし方も調べる必要があるかもしれない。元気で長生き研究所の昇所長は「感情を抑え込まないことが大事」と話す。「笑いをきっかけにして喜怒哀楽を4・1・2・3の比率で過ごせるようにしよう」と付け加える。大平教授は「よく笑っている人は、人と話す機会が多い。社会とのつながりがあるかどうかも重要な指標」と解説する。
心から笑っているのか、愛想笑いをしているのか、笑いの種類を客観的に判定する方法を確立しようとする事業もある。NPO法人のプロジェクトaH(東大阪市)は、笑いの強さと量を計測する装置の開発に取り組んでいる。
顔と腹の筋電位とのどの振動を測り、笑いの種類に応じて点数化する。単位は「aH(アッハ)」といい、数値の算出方法などを改良中。実用化すれば「毎日100aH以上笑う人の平均寿命は85歳」というような分析が可能になると、期待を寄せている。
知能を発達させた人間にとって笑いの力は絶大だ。作用の仕組みが分からないからといって、ぞんざいに扱ってはいけない。笑いのあふれる生活を送れるようにしよう。
(編集委員 永田好生)
>>>笑いは人生の潤滑剤