高知新聞 http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=295873&nwIW=1&nwVt=knd
母親のおなかの中で唇や上あごがくっつかないまま生まれる「唇裂・口蓋裂(しんれつ・こうがいれつ)」。約500人に1人の割合で生まれるとされ、18歳ごろまで治療が必要だ。本県では2003年から毎年、県立療育福祉センター(高知市若草町)で療育相談会を開催。「食べる」「話す」機能の習得や改善を目指し、県内外の専門家たちがチームで治療に取り組んでいる。
人の顔は、いろいろな突起が組み合わされて作られる。唇裂(口唇裂)は、胎児の段階で唇がくっつかなかった状態で、口蓋裂は口の天井がくっつかなかった状態。原因ははっきりしていない。
発育の状況によって異なるが、通常は生後3カ月ごろに唇裂の手術、1~1歳半ごろに口蓋裂の手術を行う。
だが、治療はここで終わらない。子どもの成長に伴い、歯並びや虫歯、中耳炎、審美上の問題などが出てくる。さらに、口蓋裂の子どもの一部は言語訓練が必要になる。
■発音チェック
「じゃあ、先生と同じようにしゃべってねー。『さしすせそ』『はいぷ』『かき』」
同センターで2カ月に1度行われる矯正歯科診療。担当歯科医の山本一郎さんが8歳の女児に気さくに話し掛けた。発音を始めると、ファイバースコープで喉の動きを見る。
女児は口蓋裂の影響で「鼻咽腔(びいんくう)閉鎖機能不全」と診断され、1歳から言語訓練に通っている。鼻咽腔は喉の奥のこと。話す際に喉がうまく閉まらないため、息が漏れ、カ行やサ行が聞き取りづらくなる。山本さんは「例えば、『がっこう』が『あっおう』と聞こえる」と説明する。
山本さんは同席した言語聴覚士に「サ行が気になる。舌の動かし方の練習を」と指示し、女児に「だいぶ上手に話せるようになった。成長したなあ」。褒められた女児はにっこり笑った。
この日の受診者は2~14歳の14人。山本さんは発音や歯の状態をチェックし、県内の歯科医や言語聴覚士らと治療方針を相談。保護者に「ご飯をしっかり食べさせて」「がらがらうがいなど口を膨らませる練習をやってみて」と助言した。
山本さんは実は、県内の歯科医ではない。兵庫県西宮市で歯科医院を開き、唇裂・口蓋裂の矯正歯科診療に力を入れている。
■わが子だけかと
来高のきっかけは01年、手術を行う県内施設が一時的になくなったことだった。近畿や中四国の病院を受診する患者が増え、家族の負担に。そこで、山本さんら県外の専門家が「高知の患者を集めてくれたら診療に行く」と提案。03年から療育相談会を開いてきた。
毎年、形成外科医、歯科医のほか、言語聴覚士や臨床心理士がボランティアで参加。午前中に個別相談を実施し、午後は難しい患者について話し合い、治療方針を決める。
第1回の受診者は33人。事務局を担当する大崎聡さん=土佐市高岡第一小学校「ことばの教室」教諭=は「治療が途中で中断した子など、想像以上に大変な状況があった」と振り返る。保護者へのアンケートでは「うちの子だけかと思っていた」という声が多数。「県内に施設がなく、患者同士が知り合う機会がなかったんです」
昨年までの9回で延べ361人が受診。大崎さんは「職種間の連携がスムーズになった」と話す。ただ、01~10年に生まれた推定患者数に対し、受診者は6割弱ほど。「相談会の存在を知らずに悩む家族がまだいると考えられます」
山本さんは同センターの非常勤職員として相談会と矯正歯科診療を担当してきた。来高はもう50回以上。その理由をこう説明する。
「唇裂・口蓋裂は『手術で見た目がよくなったら終わり』ではありません。うまく話せないばっかりに、いじめられるというケースもある。正常に食べる、話すことは生活の基本。そのための治療や訓練をもっと重視すべきです」
治療に必要な多職種によるチーム医療体制は全国的に整っていない。山本さんは「僕が知る限り、唇裂・口蓋裂の子どもの療育で高知はトップを走っている。大事に続けてほしい」と話している。