日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK11032_R11C12A2000000/
痛くない歯科医のサービス革新
先日、3カ月通った歯科医を晴れて「卒業」しました。ある日突然に奥歯が欠け、あわてて駆け込んだ歯科医ですが、歯磨きを怠っていたツケがいろんな箇所に発覚し、長期間の通院を余儀なくされたのです。
実は、今回通った歯科医では、いろいろなところでこれまでにない驚きを体験しました。
まず最先端のシステムを取り入れていたところ。レントゲンやカメラで撮影した治療箇所の記録のほか治療履歴などはすべてデジタル化されており、主治医の手元のモニターに簡単に呼び出せます。歯科衛生士との情報共有もシステム化されており、なぜ治療が必要か、どこを治療するかについて、ほぼ毎回このモニターを使ってわかりやすく説明してくれました。
以前かかっていた歯科医は、治療の腕がよいと紹介されたのですが、カルテの管理は手作業で、患者への説明はほとんどなし。治療の技量は素人には判断がつかず、治療以外のところに不満が募っていたのです。
最も大きかった驚きは、治療に対する恐怖感を克服できたことです。これまでは、歯を削るドリルによる神経に響く痛みが思い出され、回転音が聞こえただけで身をこわばらせていました。しかし今回は麻酔で治療中の痛みを抑える方針を採っていたため、麻酔の針が刺さる瞬間さえ我慢すれば、治療中は痛い思いをせずに済みました。ドリルが口の中に入っても体の力を抜いていられる自分に気が付いたほどです。
筆者が苦手とする歯磨きも丁寧にアドバイスしてくれたので、治療期間中の歯磨きに前向きになれました。それまでかかった歯科医では、歯を磨かかなかった日々について厳しく指摘されることが多く、歯を磨かなくなる→歯医者に行きたくなくなるという悪循環になっていました。
ふと気付くと歯医者は「いつ痛い思いをするかわからない怖いところ」から「口腔内の問題点を治してくれる快適な空間」に変わっていました。高い満足感を得られたため、通院中は家族や職場のメンバーにその歯科医について何度も吹聴した記憶があります。
よく似た話をショッピングサイトに関わる本で読んだことがありました。「(略)・・・驚きの体験を生み出し、顧客の記憶にとても長く残り、友人や家族への口コミにつながるのです」――。
靴を中心としたアパレル販売サイト、米ザッポス・ドット・コムのトニー・シェイCEO(最高経営責任者)は、著書「Delivering Happiness(ザッポス伝説)」(ダイヤモンド社刊)でこう述べています。同社は2009年に米アマゾン・ドット・コムに12億ドルを超える金額で買収されました。カスタマーサービスは全社員の仕事と考え、マニュアルを持たず最長6時間でも対応するコールセンターなどで顧客一人一人と生涯続く関係を築こうとしています。
サービス品質の向上は、ユーザーからのロイヤルティーに結びつきます。「誰でも開業できる」といわれて久しいショッピングサイトは、長年過当競争が続いています。筆者も、ほんの少しの成功例といくつもの失敗例を見てきましたが、事業を続けるには顧客からの信頼を勝ち得なくてはなりません。
最近、筆者も新興のショッピングサイトでこんな経験をしました。このサイトはこれまで物流が弱点となっており、注文した商品が届くまでに時間がかかっていました。ところが先日は、金曜の夜に注文した商品が日曜日に自宅に届いたのです。期待していなかった分驚きが大きく、サービスレベルが飛躍的に高まったことで、そのサイトへのロイヤルティーも上がりました。
戻って歯科医業界を調べてみると、全国で歯科医院の数は約6万8000施設あり、4万強とされる全国のコンビニエンスストアを大きく上回る規模とのこと。ショッピングサイト同様、過当競争が続いている業界でした。
こうなると、基本的な治療の腕は大前提ですが、その先には患者の信頼を勝ち得、口コミで推薦してくれるほどの「驚きの体験」が必要になってきます。そして筆者は今回、治療の過程でいくつもの驚きを体験しました。
筆者はこれまで職場の近くや自宅の近くなど、いくつかの歯科医を渡り歩いて来ました。次は3カ月後に検診の連絡があるとのことですが、またここで口腔チェックを受けたいと考えるようになっています。
>>丁寧なインフォームドコンセントが必要ですね。