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基調講演 口の病気 全身に影響
口腔ケアから、全身の健康を考える」が10月14日、東京都新宿区のベルサール新宿グランドで開かれた。
日本歯科大病院(東京都千代田区)病院長の羽村章さん、東京医科歯科大歯学部(同文京区)教授の下山和弘さんの基調講演の後、日本歯科医師会常務理事の倉治ななえさん、ロンドン五輪日本代表選手団主将の村上幸史さんも参加し、パネルディスカッションが行われた。約370人が来場し、熱心に聞き入っていた。(コーディネーター 読売新聞東京本社医療情報部長・南砂)
国内でのむし歯を巡る状況は変わってきています。WHO(世界保健機関)がまとめた調査では、歯が生えそろう12歳児のむし歯は1人平均1・9本でした。1975年の5・9本と比べて激減しています。
むし歯は、口の中の常在菌による感染症です。ミュータンス菌などむし歯菌が、食事で摂取した砂糖とくっつくと、酸が作られます。それが、歯を溶かして穴を開けてしまうのです。
ぜひ知ってほしいのは、むし歯は、歯に穴が開くより前に始まっているということです。
むし歯は、歯に透明感がなくなり、白くなることから始まります。酸によって、歯の中にあったミネラル(カルシウムやリン)が外に溶けだしてしまうからです。これが「脱灰」です。
ただ、しばらくすると、唾液で口内が中和され、ミネラルが歯の中に戻る「再石灰化」が起こります。
むし歯は、脱灰と再石灰化のバランスが崩れ、脱灰が過度に進むことで起こります。歯が白くなった時点で見つけられれば、穴が開かないように進行を止める治療が可能です。一度穴が開いてしまったら、自然に埋まることはありません。
歯科を受診すれば、こうした早期のむし歯を見つけることができます。定期的な検診が重要です。
むし歯の予防は、
〈1〉母親の口の中を清潔にし、口移しを避け、子へのミュータンス菌の感染を遅らせる
〈2〉歯磨きで、たくさんのむし歯菌が含まれている歯垢(しこう)をしっかりと落とす
〈3〉フッ化物を使い歯のエナメル質を丈夫にし、再石灰化を促す
――などの対策が有効です。
最近、キシリトールが活用されています。シラカバやカシの木から作られる甘味料です。フィンランドでは、キシリトール入りの食品を積極的に取り入れることで、国民のむし歯を減らすことに成功しました。
特に注目されるのは、早期感染を予防する効果です。母親がガムでキシリトールを摂取することで、口の中のミュータンス菌を減らし、子どもへの感染を防ぎ、むし歯が減るのです。
歯垢を落として、口の中を清潔にすることは、歯周病予防にもつながります。歯周病の直接の原因は歯周病菌です。空気がある場所では増殖しにくい、という特徴があります。歯と歯茎の間が歯垢でふさがれてしまうと、空気が入る隙間がなくなり、菌が増殖してしまうのです。
歯周病は、糖尿病や心臓病、早産とも密接な関係があります。歯周病菌や、炎症によってできる物質が、歯肉から血液を介して全身に運ばれて影響を及ぼすのです。
また、肺炎の原因菌は、口の中にいる細菌と同じものが多く、この細菌が唾液と一緒に肺の中に入り込むことによっても肺炎が起こります。口の中を清潔にし、むし歯や歯周病を予防することは、全身の健康にもつながるのです。